施設に宿る物語
祖父が遺した信頼のシンボルから、世界に開かれた旅の拠点へ
香川県高松市の中心部。街の喧騒から少し離れた静かなエリアに、重厚な門構えと美しい日本庭園を有する「穴吹邸」はあります。この建物は1970年、戦後の焼け野原となった高松の復興を住宅供給という形で牽引した、穴吹工務店の創業者・穴吹夏次氏の邸宅として建てられました。
屋上にそびえる、伝統的な日本の天守閣を思わせる象徴的な意匠
当時は、取引先やお客様に安心感を与える「信頼のシンボル」として機能し、時には見事な錦鯉が泳ぐ庭にお客様を招き入れる迎賓館のような役割も果たしていました。そして同時に、現邸主である穴吹英太郎氏の家族の歴史と温かな思い出が刻まれた大切な「自宅」でもありました。
時代の移り変わりとともに空き家となり、一時は更地にするという話も出たこの邸宅。しかし、英太郎氏は「この思い出の家を、高松を訪れる方の旅の拠点として残したい」と決意します。こうして穴吹邸は、家族のための空間から、世界中の旅人へ瀬戸内
の深い文化と歴史の文脈を伝える、1日1組限定の特別なラグジュアリーホテルへと生まれ変わりました。
単なる豪華な宿泊施設ではなく、香川という土地が持つ「アート」や「自然」、そして四国ならではの「人との温かな交わり」を五感で体感できる場所。それが、穴吹邸という空間に宿る物語です。
私たちが目指すのは、単にきれいな部屋やおいしい食事を提供するだけの場所ではありません。私
自身がお客様の旅の登場人物となり、地域のコミュニティへ深く関わるための『鍵』となること。それが、真の豊かさをご提供することだと信
じています。
邸主の想いと哲学
私は若い頃、上海でホテルマンとして働いたり、フィリピンで語学を学んだりしながら、未知の外国の方々とコミュニケーションを取る喜びに魅了されました。帰国後、宿泊業に携わるようになったのですが、いわゆる通常のホテルや民泊のフロント業務で、チェックインの時にしかお客様と関わることができず、旅の「登場人物」にはなれないことに物足りなさを感じていました。私はもっとお客様の旅に深く介在し、親密なコミュニケーションを取りたかったのです。
そこで、穴吹邸をリノベーションするにあたり、私自身がオーナー兼サービススタッフとして、チェックインから
チェックアウトまでお客様の滞在に寄り添う
スタイルを選びました。富裕層のお客様であっても、ゴージャスな体験を一通り味わった後に行き着くのは、結局「人との触れ合い」や「偶然の出会い」による喜びです。四国には、お遍路の「お接待」に代表されるような、人と人との距離が近い温かなカルチャーがあります。東京や京都の洗練された滞在とは真逆に振り切った、この四国らしい「互いの想いが混じりような合う滞在」こそが、私たちが提供できる最大の価値だと考えています。
また、海外からのお客様には『継承』というテーマで香川の文化の深層をご案内しています。400年の時を刻む栗林公園から、現代アートの聖地・直島へ。そこには単なる点としての観光ではなく、脈々と受け継がれてきた文化の奔流があります。
私はお客様に戦後の香川でデザインの礎がどう築かれ、過疎に悩む島々がアートの力でいかに奇跡的な復興を遂げたのかという、土地の『記憶と再生』の物語をお話しします。その文脈を知ることで、直島で目にするアートは、より一層の輝きを放って彼らの心に届くのだと信じています。
穴吹邸での滞在を通して、お客様には『時を休む』という感覚を深く味わっていただきたい。目まぐるしく名所を巡るのではなく、のんびりと心身を緩め、旅の体験を自分の中に静かに消化する。そして、ご家族やパートナーと心からの言葉を交わす。そんな豊かさを大切にしています。
私は、これまで旅人が触れることのできなかった地元のシェフや庭師、盆栽家といった職人たちの世界へ繋がる『扉の鍵』でありたい。伝統が息づくコミュニティの内側へと入り込み、まるでこの土地の一員になったかのような体験をしていただく。この『開かれた日常』のなかにこそ、私たちが世界に誇りたい、日本の本当の魅力があると考えています。
香川の文化と歴史を体感する、“一点もの”の空間と体験
時代を巡る、コンセプトの異なる客室
お目覚めは日本庭園とともに(1F Heritage Master Suite )
穴吹邸の客室は、ただ眠るための場所ではなく、それぞれが香川の歴史と文化を表現する『一点もの』の空間です。
建築当時の職人技をそのまま残し、邸宅の記憶を色濃く受け継ぐ部屋。戦後香川のモダニズムやイサム・ノグチ、ジョージ・ナカシマといった巨匠たちの息吹を感じさせる部屋。そして、現代を生きる作家たちの新しい感性に触れられる部屋。
ここで土地の記憶に触れてから、翌朝、直島や瀬戸内の島々へ。その時、ゲストの目に映るアートは、単なる作品を超えた深い文脈を持って語りかけてくるのではないでしょうか。
樹齢100年の黒松と、北欧式サウナが融合する庭園
門をくぐると、穴吹家の歴史を見守り続けてきた樹齢百年の黒松がお客様をお迎えします。かつて特別名勝・栗林公園の庭園を支えた庭師。その卓越した技が今もこの庭に宿り、夜のライトアップとともに、静謐で美しい陰影を描き出します。
一方で、庭の気配に溶け込むように佇むのは、本格的なフィンランド式の薪サウナと露天風呂です。日本の伝統的な様式美と、北欧の「ヒュッゲ(居心地の良い空間)」の精神。時を重ねた庭の中で、薪の爆ぜる音を聞きながら過ごすひとときは、心身を本来のリズムへと整えてくれます。
プライベートが確保された露天風呂
地域の魅力に深く入り込む、特別なガストロノミー
お食事に決まったメニューはございません。私たちが信頼を寄せる地元のシェフを邸宅に招き、その日、その時のためだけに仕立てた料理をご用意いたします。瀬戸内が育む旬の恵みを、移ろいゆく庭園の景色とともに、心ゆくまでご堪能ください。
お客様のために、ここでしか出会うことができない、たったひとつの料理の数々
また、ときには邸宅の外へ。私が日頃から通い、大切にしている地元の名店へ皆様をご案内することもございます。一般には門戸を開いていない店であっても、私との繋がりを介することで、まるで常連客のように温かく迎え入れられる。ローカルの熱気に触れ、土地の人々と響き合う食卓は、旅の記憶に深く刻まれる特別なひとときとなるはずです。
邸主 穴吹栄太郎氏とともに、親交のある特別な地元 名店へ
宿のご紹介
日本文化の深層へ、土地の精神と繋がる。一棟貸しヘリテージ・ヴィラ「穴吹邸」
高松の中心部にありながら、一歩足を踏み入れると街の喧騒から切り離された静謐が広がります。一族の私邸を「サヌキ・モダン」の空間へリノベーションした、一日一組限定のヴィラです。
私たちが掲げるのは、土地の精神に触れ、自身の感性を研ぎ澄ます「時休(JIKYU)」という滞在の形。伝統建築の風格と名匠たちの技に包まれ、日本の文化を「情報の断片」ではなく「生きた物語」として深く体験する。大切な方と共に、日本との真の繋がりを結び直すための、特別な拠点となるはずです。