施設に宿る物語
弘法大師の導きにより誕生した、お遍路さんのための憩いの湯
眼前に穏やかな波が寄せる竜の浜海岸を望み、背後には緑豊かな横浪半島の自然が広がる高知県土佐市宇佐町。三陽荘は、第36番札所・青龍寺からほど近いこの地に、平成元年(1989年)に産声を上げました。
この宿の成り立ちは、少し不思議な物語に包まれています。弘法大師(空海)に深く帰依していた先代の創業者は、「お遍路さんの心身を癒やす場を作りたい」という切実な願いを抱いていました。
そんな折、弘法大師のお告げに導かれるようにしてこの場所を定め、温泉を掘削したのです。
地下1700メートルという途方もない深さから湧き出たのは、黄金色に輝く「土佐龍温泉」でした。
その類まれな塩化物泉は、1200キロにも及ぶ過酷な道のりを歩み続ける巡礼者たちを優しく包み込む「憩いの湯」として、またたく間に愛されるようになりました。
館内には今も、創業者の厚い信仰心を象徴する純金製の「黄金大師」像をはじめ、数多くの仏像が祀られています。
しかし、三陽荘が守り続けているのは、過去の歴史だけではありません。長きにわたり受け継がれてきた遍路宿としての「善意」や「お接待」の精神を、現代の旅行者にも届く形へと進化させるべく、新たなチームによる挑戦が始まっています。
「マニュアル通りの丁寧さではなく、お客様の言葉の裏にある心理的なニーズを汲み取り、自ら考えて動く。そんな三陽荘ならではの『親切』が、皆様の旅の記憶をより豊かなものにすると信じています」
支配人の想いと哲学
私のキャリアは日帰りの観光施設に就職することから始まり、宿泊業に転職しました。それから今に至るまで、星野リゾートをはじめとする様々な宿泊施設で、チームマネジメントや宿の魅力開発に携わってきました。
そして2年前、縁あってこの三陽荘の支配人として着任し、高知へ家族とともに移住してきました。
当初、歴史ある遍路宿のあり方を根本から見直す私のやり方に、戸惑うスタッフも多くいました。
しかし、私が最も伝えたかったのは「時代が変わっても、お客様に本当に喜ばれる宿であり続けるための仕組みづくり」でした。
着任して驚いたのは、遍路宿ならではの強烈な「善意」の文化です。例えば、お遍路さんが天候などで当日に来られなくなっても、キャンセル料を一切いただいていなかったのです。
巡礼者を応援したいという気持ちは尊いものですが、それでは宿として存続していくことができません。
私は宿泊約款やキャンセルポリシーをしっかりと整備し、まずは「持続可能な宿泊施設」としての土台を固めました。
しかし、それは決してサービスを冷たくビジネスライクにするということではありません。
むしろ、安定した基盤があるからこそ、お客様一人ひとりに深く寄り添うことができるのです。
私はスタッフに「丁寧な接客と、三陽荘らしい『親切』は違う」と伝えています。
地元の言葉である土佐弁を交えても構わない。
大切なのは、お客様が本当に求めていることを察知し、自分たちで考えて行動することです。
お遍路のカルチャーにあまり馴染みのない一般の旅行者や外国人の方々に、「青龍寺は朝青龍関の四股名の由来になったんですよ」と会話の糸口を作ったり、疲れた表情の方にさりげなく声をかけたり。
そうしたスタッフの「一生懸命な親切」が、今では数多くの口コミで高い評価をいただけるようになりました。
これからも、ここでしか味わえない温かいコミュニケーションを通じて、四国の魅力を世界に発信していきたいと考えています。
時代に合わせた“親切”の探求と、心と身体を癒やす土佐の恵み
言葉の壁を越える、多国籍チームのおもてなし
三陽荘には現在、ベトナムや台湾など多国籍なスタッフが在籍しています。
外国人巡礼者が急増する中、彼らの存在は非常に心強いものです。
日本語や英語が流暢でなくても、身振り手振りを交えながら「お客様のために」と一生懸命にコミュニケーションを図る姿は、国境を越えてゲストの心を打ち、温かい絆を生み出しています。
疲労を芯からほぐす、黄金の「熱の湯」
地下1700mから湧き出る高知県内唯一の高濃度&高温度温泉「土佐龍温泉」。
塩分を多く含むこの塩化物泉は、肌に薄い膜を作り保温効果が抜群です。
1日数十キロを歩くお遍路さんや、アクティビティを楽しんだ旅行者の筋肉疲労を和らげ、心身を深く癒やしてくれます。
太平洋の海風を感じながら浸かる露天風呂や壺湯は格別です。
土佐の食文化と多様性への配慮
土佐市宇佐町は「本枯れ節(鰹節)発祥の地」と言われています。
出汁の旨味にこだわり、日戻り鰹の藁焼きや伊勢海老など、地元の新鮮な食材をふんだんに使った会席料理を提供しています。
また、世界中から訪れるゲストが安心して食事を楽しめるよう、ベジタリアンやヴィーガン対応にも積極的に取り組んでおり、多くの方に喜ばれています。
巡礼者との心温まるエピソード
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フランス人シェフ箸の使いやすさが繋いだ、日本の食文化への愛着が“レシピ”で返してくれた恩返し
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ある時、外国人の巡礼者が当館のレストランで食事をされました。その際、不慣れな方でも持ちやすいように「くびれのついたお箸」をご用意したところ、「とても使いやすくて、ゆっくり食事が楽しめた」と大変感激されました。
帰りがけに、そのお箸を売店でご自身の分やお土産としてたくさん買っていかれたそうです。小さな気遣いが、日本の食文化への愛着へと繋がった嬉しい瞬間でした。
- 言葉の壁を越えた「一生懸命さ」への賛辞
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多国籍なスタッフが増えた当初は、言葉の壁により上手くご案内ができないこともありました。しかし、片言の単語やスマートフォン、そして何より笑顔とジェスチャーを交えて必死に伝えようとするスタッフの姿に、海外のゲストは不満を抱くどころか「一生懸命さが伝わってきて嬉しかった」「頑張ってね」と温かい言葉をかけてくださいます。
相手を思いやる気持ちに国境はないのだと、スタッフ自身も大きな勇気をもらっています。
宿のご紹介
海と山に抱かれた、多様な旅の拠点
眼前に竜の浜海岸を望む三陽荘は、全42室(最大宿泊人数124名)を備える規模の大きな旅館です。
滞在の目的に合わせて選べる12種の客室(和室、ツイン、スイートなど)に加え、グランピング感覚を味わえるトレーラーハウスも完備しています。
誰でも無料で利用できる「足湯」からは海を一望でき、巡礼者や旅行者同士の語らいの場となっています。
ワーケーション用のワークスペースを備えたお部屋もあり、現代の多様な旅のスタイルに応えます。
外観:三陽荘の夜の風景
特別室:季節の移ろいを感じられる特別なお部屋
和室:海を見下ろすここだけの絶景