施設に宿る物語
歴史の再興:ある遍路宿の再生にかける情熱
遍路宿「枕流亭(Chinryutei)おもご旅館」の歴史は、明治元年(1868年)――日本が近代化へと歩み出したその年に始まりました。その優雅な亭号「枕流亭」は、宿に残る一枚の書(扁額)に由来します。
かつてこの地に滞在した明治時代を代表する歴史学者・漢学者であり、近代的な歴史学研究法を日本に導入した人物として知られる重野成斎(Shigeno
Seisai)は、ここでの滞在を「川の流れを枕にして眠るかのような、風流な体験」と評し、その感動を「枕流(Chin-ryu)」という言葉に込めて宿主に書き贈りました。
かつては料亭として、やがては土佐街道を行き交う旅人と巡礼者を癒やす宿として。第44番札所・大寶寺(Daihoji)から徒歩わずか10分という、聖地に最も近いこの宿は、長きにわたり愛されてきました。
しかし、コロナ禍と高齢化の波には抗えず、一度はその長い歴史に幕を下ろしました。そして今、新たなオーナーの手により、この場所は再び息を吹き返そうとしています。
かつての宿場町の面影を残す通りに、ひっそりと佇むおもご旅館。その外観は、一見するとこぢんまりとした一般的な民家に過ぎません。
しかし、ひとたび足を踏み入れれば、その印象は心地よく裏切られることでしょう。奥へと続く広大な空間、複雑に入り組んだ3つのフロア――それはまるで「迷宮(Labyrinth)」です。
明治、大正、昭和。増築を繰り返すことで生まれた複雑な構造は、日本の建築史を旅するパノラマのように、訪れる者をタイムトラベルへと誘います。
「ただ泊まるだけの場所ではない何か」を創ること。それが私の挑戦です。
現在は無償で開放していますが、ここは世界中の文化が集まる交差点でもあります。キッチンで故郷の味をシェアしたり、旅の物語を聞かせてください。多様な背景を持つあなたとの出会いこそが、この宿の最大の財産なのです。
オーナーの想いと哲学
50歳という人生の折り返し地点を目前にして、私はふと立ち止まりました。
長年携わってきたITコンサルティングの世界は刺激的でしたが、私はもっと根源的なこと――世の中のために汗をかき、世界中の人々と心で触れ合うこと――にこれからの人生を捧げたいと願ったのです。
当初、私は京都の古民家を再生しようと計画しました。しかし、そこで見たのは私の求めていた日本ではありませんでした。
オーバーツーリズムの波に飲み込まれ、どこへ行っても人、人、人。そこには、旅人が自分自身と向き合うための「静寂」も、ゆったりとした時間の流れも失われていました。「本当の日本」は、もう観光地にはないのかもしれません。
私はゲストに、飾らない本物の日本文化と、魂が震えるような大自然に触れてほしかった。その答えを求めて辿り着いたのが、ここ久万高原町です。
奇しくもここは、四国八十八ヶ所巡礼の44番札所「大寶寺」のすぐ近く。長い巡礼の旅の、ちょうど「中間地点」にあたります。
人生の折り返しを迎えた私が、巡礼の折り返し地点であるこの場所に導かれたことに、運命を感じずにはいられません。
ここは、一度立ち止まり、呼吸を整え、再び歩き出すための場所。他の観光地の喧騒にはない、透き通った空気がここにはあります。
再生の途上にある聖域:あなたもその物語の一部に
四国遍路の旅が特別なのは、「お接待」があるからです。
道端で地元の人から「頑張ってください」とミカンやお菓子、お茶を渡されることがあります。それはチャリティーではなく、巡礼者への敬意と祈りの証です。見知らぬ人からの無償の愛に触れることで、あなたは歩き続ける勇気をもらうでしょう。
しかし今、遍路の歴史を支えてきた多くの宿が、建物の老朽化や経営難により、静かにその扉を閉ざしています。「安く泊まれればいい」という古い慣習が、宿の持続可能性を奪っているのです。
私たちはこの流れを止めたい。おもご旅館の再建は、単なる修復工事ではありません。それは、巡礼者が心身を深く癒やせる「高付加価値な聖域」として宿を蘇らせ、この文化を次世代へ残すための壮大な挑戦なのです。
現在、私たちは正式な開業に向け、大規模な安全設備の投資とリノベーションの真っ最中です。
そこで、私たちは特別な提案をします。この「再生の過程」に立ち会えるのは今だけです。正式オープンまでの期間、私たちはあなたを「お客様」としてではなく、「再建のパートナー」として無償で招待します。
代金は要りません。その代わり、日本の伝統建築に新たな命を吹き込む作業に手を貸したり、近所の人々と一緒に料理をして食卓を囲んだり、あなたの旅の物語を私たちに聞かせてください。
それは単なる労働交換ではなく、歴史への参加です。地元の人々と笑い合い、共に汗を流す時間は、ただ通り過ぎるだけの旅では決して味わえない、遍路の「日常」に溶け込む深い体験となるでしょう。
ここは、長い旅路の中間地点。歩みを止め、自分自身と向き合うためのリトリート(隠れ家)です。
私たちの夢と、あなたの参加が、この場所を未来の巡礼者のための灯火(ともしび)に変えます。私たちの物語の1ページに、あなたの名前を刻みに来てください。
巡礼者との心温まるエピソード
- 日本のスーパーでの食材お買い物体験
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林業について研究する大学院生のルカスさん、スパニッシュオムレツを私たちに振る舞ってくれました。地元のスーパーマーケットに大学生たちと一緒に食材を調達した時には、日本独自の食材について学んで大興奮。日本の普段の暮らしのひと時を私たちと愉しみました。
- イタリアと日本の文化の違いや特徴を語り合う
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若きプラントエンジニアのニコさん、ただ寝るためだけに宿へ料金を支払うのを躊躇っていると近隣のレストランでお話しされていたことで、当館をご紹介いただきました。深夜までみんなで互いに知らない自国の文化、その特徴を語り合い、特別な夜となりました。